小林リズムの紙のむだづかい(連載75)

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紙のむだづかい(連載75)
小林リズム

【就活しない 前編】



 習い事は、名前負けしないようにと習わされたピアノしかしたことがない。それも毎日の練習をこっそりとサボッていたし、ちっとも上達しなかった。計画を立てたテスト勉強スケジュールもまるで意味がなく、いつもその大幅に遅れたスケジュール表を前に焦りと自己嫌悪にさいなまれるテスト前を過ごしていた。アルバイトも総じて長続きせず、好奇心で始めてはすぐに辞め、を繰り返してきた。

 そんなだったから、最初からわかっていたといえばわかっていたのだと思う。大学生のとき、ついに私は就職活動さえ放棄したのだった。苦手なストッキングを履き、キッチリとしたまとめ髪にして、やたらと詐称したバイト歴と、そこから学んだらしい架空のストーリーを発表しているうちに、登校拒否ならぬ就活拒否になってしまったのだ。

 説明会の予約を入れても日が近くなるにつれて「あれ、どんな企業だっけ。ま、いっか。別にここの会社じゃなくても」という軽いノリでキャンセルし、だけど夜になると焦り出して、やたらと説明会の予約をしてしまう、ということをバカみたいに繰り返していたのだった。「どうせこんな状態で就職しても続かないんだろうなぁ」と思っていた矢先に、編集プロダクションの求人を見つけ、そこでアルバイトを始めたのが就活真っ只中の大学3年生の2月だった。シフトも週5近く入れたりして就職活動そのものをしない環境へと追いやった。

 振り返ってみると、そのバイトで身に着けた基本的なビジネスマナーのおかげで、良くも悪くも教祖会社に就職できたし、そのときに貯めたお金があったので、いきなり無職になっても食べられずに死んでしまうということは免れたので、無駄なことはないなぁ思う。

 就活をやめたからといって、フリーターになろうとはまったく考えていなかった。絶対に正社員がいいし、社会保険も厚生年金もボーナスもきちんとある会社がいい。正社員経験がないという経歴では、これから先やっていけないだろうし、私は奨学金も返済しないといけない。何より、一人暮らしを始めるときに内定承諾書があったほうが、マンションの審査は通りやすい。かくして、私は大学4年生の1月という、ほぼみんな内定をもらって卒業旅行を盛大に楽しんでいる時期に就活をしようと決めたのだった。