小林リズムの紙のむだづかい(連載72)

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紙のむだづかい(連載72)

小林リズム

【貪欲に生きようと思いますよね】

 自分へのご褒美に弱い。バイトを始めた日だとか、ちょっとだけ痩せただとか、何かにつけてご褒美をしてしまう。美味しいケーキだったり、新しい靴だったり、読みたかった本だったり、その日の気分によって言い訳みたいにして買う。おかげで週に何度も自分へプレゼントをしていて、無駄なものや脂肪も増えたりして、有難味もなくなってしまった。それでも、なかなかやめられない。
 22歳になる誕生日。これまた自分へのご褒美にピンキーリングを買った。なんでも願いが叶うと噂されるもので、恋人ができたり結婚したりと幸せの道をたどっている人の報告も相次いでいるそうだ。「この指輪は、今までのご褒美とは違う…」と思うくらい私にしては奮発した値段だったし、誕生日ということもあって、気合いの入れ方もひとしおだった。
 
 「あのー、これって願いが叶うって言われているやつですよね?」
と、店員さんに聞いたとき、くっきりとした笑顔で「そうなんですよー、毎晩“ありがとう”ってピンキーに感謝するといいらしいですよ」と言われたので、すっかりその気になってしまった。感謝すれば幸せで返してくれる…、そんな恩恵を受ける気満々で、私はその日から毎日指輪をはめ続けた。バカみたいに寝る前に「今日もありがとう」と小指に向かってつぶやいて、朝起きたら「今日もよろしくね」とほほ笑む。何やってるんだろう、と我に返るのが遅かったのかもしれない。

 3月に22歳になってからこれまでの経緯を、決してピンキーリングのせいにするわけではないのだけど、この指輪をはめてから私は職を失った。情緒不安定にもなったし、変な大人にも遭遇したし、迷惑をかけて友達さえ失いそうにもなった。極め付けに、最近目まで患ってしまった。こうなるともう、クッションにアイスを落としてシミができたこととか、足の小指をベッドにぶつけて爪がはがれたことも、この指輪のせいなんじゃないかと思えてくる。
 一方で、苦難のときにいつも小指に寄り添っていたこの指輪を無下にもできず、なんだか同士みたいに「一緒に今まで頑張ってきたよね」と一層大切にしたくもなってしまう。最近はこの葛藤に悩まされ、結局はめ続けている。
 
 ピンキーリングは願いが叶ったとき、左手の小指から右手の小指にはめる代えるのがいいらしい。左手は「獲得」、右手は「守り」という意味があるそうだ。22歳になってから、得たものより失ったもののほうが多いのは確かだけれど、失ったものより獲得しようとしているもののほうが多いのもまた事実。この幸せを守りたい…と、右手の小指にはめる日は、まだまだ遠そうだ。