小林リズムの紙のむだづかい(連載56)

昨日は本ブログで小林リズムさんのエッセイ連載五十回突破を記念してB3(Bスリー=山下聖美・浦井アンナ・小林リズム。彼女たちはそろって血液型Bでビッグを目指す女性たち、ということでB3と名付けました)と小生が江古田の居酒屋に集まり飲み会。今後の展開を話し合った。日芸マス研の取材、特別講義での報告会など、具体的に予定が組まれた。また電子書籍によるデヴューなど、Bスリーは未来に向けて歩き始めた。


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紙のむだづかい(連載56)


小林リズム

【内出血には蒸しタオルなんてウソ】


 「内出血の跡を消したい」
と言われて一番最初に思い浮かぶのは「やだもう!首についたキスマークが目立っちゃう!消さないと…!」という色っぽい出来事だと思うのだけど、中学生だった私は、必死になって内出血の跡を消したがっていた。それはもう、吸いすぎて大変なことになっていたのだ。次の日が学校だというのに赤黒いアザのような跡がまったく消えなくて、絶望的だった。

 事の始まりは清涼飲料水だった。スッキリした後味が美味しくて、ペットボトルに入ったそれを一気飲みしてしまった。飲み終えたあともなんとなく手持無沙汰で、空っぽのペットボトルを吸っていた。ベコベコとへこむペットボトルに興味を持った私は、「空のペットボトルをどこまでへこませるか」に躍起になって取り組んだのだった。
 ペットボトルの容器はそれなりに固いから、へこますのが困難だった。けれど吸えば吸うほどへこむ。へこませてからひと休みするために、私は自分の唇を栓代わりにしてペットボトルに突き出し、空気が入るのを防いだのだった、が、それが間違いだった。

 シュポッとペットボトルから唇を抜くと、ぶるんっと空気が入り唇が伸びる。その一連の流れが面白くて、私は繰り返しペットボトルを吸った。何度吸ったかわからないくらい吸ってから、お母さんに言われた。
「りっちゃんなにやってるの?口の周りがすごいことになってるよ」
と笑われたので、わけがわからず鏡に向かうと、そこにはカールおじさんのようになった自分がいた。ペットボトルを吸いすぎたせいで、口の周りが内出血をし、赤黒くなっていたのだ。それはもう、たとえるならカールおじさんとしか言い様がなくて、どこまでもカールおじさんのヒゲと似ているアザだった。

 思春期真っ盛りでかわいこぶっていた私は、こんなカールおじさんのような顔で学校へ行けないと健気にも泣いてしまった。「もう…どうすればいいの…!?」と深刻に訴えると、母は笑いながら「内出血には蒸しタオルがいいっていうよ」と言うので、タオルをレンジでチンして口周りに乗せてみた。けれど、一向に治らない。その日は一晩中手を尽くして、最終的には「朝になったら内出血がなおって消えていますように」という願掛けをして眠ったのだった。

 しかし、無常にも朝になってもそれは消えていなかった。私としてはこんな顔で学校へ行くなんてありえなかった。再び泣きながら母に訴えると「大丈夫、ファンデーションしてあげるから」と言われ、とりあえずはそれで決着がついた。薄くアザは見えるけれど、塗らないよりはマシだ。今日はあまり人と関わらないで安静に過ごそう…。と、思っている日に限って、「音楽会で歌う曲を決めるから音楽係は前に出てきて」なんて言われてしまったりして、それがもう4時間目とかでファンデーションがハゲかけていたりして、友達に「大丈夫だよ、カールおじさんではなくて…うーん、クマみたい」なんて言われたりなんかして、とにかく散々だった。そして、もう二度とペットボトルを吸わないようにしようと決意したのだった。もちろん、キスマークの原理が同じ内出血だなんて知らなかった頃の話。