小林リズムの紙のむだづかい(連載46)

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紙のむだづかい(連載46)


小林リズム

【身元不明のタンポンが届く】

 出会いはいつも突然に、とか、やたらとロマンチックには言われるけれど、それにしたって唐突すぎるとドキドキっていうよりは、心臓が止まるんじゃないかとか、発作起こしちゃうんじゃないかとか、そこのところちゃんと配慮してくれなきゃ困るよ、と、たまに思う。

 たとえば、私がタンポンと出会ったのは、忘れもしない大学4年生の夏だった。
「りっちゃん、なんか段ボールが届いてるわよ」
と祖母に言われて玄関に駆けつけると、私宛の名前でやたらと大きな段ボールが届いていた。まったく身に覚えがなくて「この大きさだし、どんな素敵なプレゼントなんだろう?ていうか、誰からの贈り物?」なんていうノリで嬉々として開けてみると、大量のタンポンの詰め合わせセットみたいな箱が50個くらい整列していて、あまりにもびっくりしすぎて私は一度開けた段ボールを再びガムテープで貼り付けてしまった。
 いやいやいや、お宅さんはご存じないかもしれないけれど、仮にも処女の私にはあまりにもインパクトが強すぎるっていうか、なにその存在感っていうか、つまりちょっとそれは、ねえ?攻めすぎじゃないですかね、もっと段階とかさ、踏んでくれないとさ、ここ祖父母も住んでるしさ…、と行き場なく心の中で突っ込み、いきなりの展開に焦りまくって、何も悪いことはしていないのに「あぁ、まじごめん」とひとりで勝手につぶやいてしまったほどだった。
 しばらく冷静になろうと廊下で頭を冷やしていると、それこそ現実味がなくなって、あれ、さっきのは見間違い?まぼろし?と思えてきて、自分の部屋に段ボールを持ち込んで確認してみたのだった。
 しかしどの角度から見ても四角い箱に入っているこれは、紛れもなくタンポンっていうやつなのだ。間違いない、説明書にも商品名書いてあるし。しかもご丁寧につけ方まで書いてあるし。ポーズのイラストまで載ってるし…いや、問題はそこじゃなくて、なんで家に贈られてきたのかということで。送り主はタンポンを発売している会社からになっているけれど、懸賞なんて小学生のとき以来送ったことのないし、会社との面識もない、わけがわからない。
 身元不明の大量のタンポンをどうしたものか…途方に暮れている私のもとに祖母がやってきて事もなげにさらりと言い放った。
「りっちゃん、よかったわね。私もナプキンよりタンポン派だったの、そのほうがラクじゃない」
ウフッとほほ笑みながら御年70歳の祖母から主張されて、なんかもう、私のなかの何かが崩れた。そうか、時代は21世紀。いきなり私宛に頼んだ覚えもないタンポンが尋常じゃない量で送られてくるのも、なんら不思議なことではないのだ。使ったことがなかろうと、経験がなかろうと、そんなの一切関係ない、そう、現代は法の下に平等、みんな違ってみんないいのだ、そうよね、みすず…。混乱しながら、とりあえずはそのやたらとかさばるタンポンセットを1個ずつ開けて説明書と箱を捨てて…というサイクルを繰り返したのであった。
 途中、リビングで一心不乱にタンポンを片づけている私に「なんだそれは?」と空気を読まずに聞いてきたおじいちゃんに拍手を。そして「あぁ、なんて説明しよう、どうしよう、これは血を食い止めるための道具で、とか言わないといけないの?なんか紐がついているみたいで引っ張ると抜ける仕組みになっているらしいよ、とか具体的なのが必要?なんで孫が祖父にタンポンの使い方を説明しないといけないんだ…。え、なに?もしかしてこれが現代のお年寄りに親切にする在り方ってやつ?ちょっと!異議ありまくり!」と心のなかで訴訟を起こしつつ、冷静を装って聞こえないふりをした私にも、盛大な拍手を。