小林リズムの紙のむだづかい(連載43)

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紙のむだづかい(連載43)


小林リズム

【脱走癖 後編】


 絶壁に立たされた私がした行動は、暴れることだった。「やだ!嫌いにならないで!!」とか「失いたくないの!!」とか、とにかくもう泣き叫びながら縋り付いた。雨も降っていたし、メイクも崩れていたし、自分でもなにがなんだかわからなかった。手を掴んで「待って!いかないで!」とかいうのもした。そんな痴態をさらしたにも関わらず、親友は黙ったままで、掴みかかった私の手を振り払った。あぁもうこれは取り返しがつかないんだな…とぼんやり思った。…が、それでも諦められず「ねえ!もう二度としないから!お願い!!友達やめないで!!失いたくないの!!」とひたすら言い続けたのだった。

 始発の時間になり、ふたりでとぼとぼとホームに向かった。そしてはじめて彼女が口を開き「ごめんね」と言った。もうダメなんだ、これは最後の別れの言葉なんだ…そう思って泣きそうになったとき、「信じなよ」と言われたのだった。彼女は続けて「あんた意外と人間不信なんだから。友達やめるわけないじゃん。うちがいるっしょ」と笑ったのだ。びっくりした。たとえるなら、別れ話で疲れ果てた末に「結婚しようか」と言われた女の子のような気持ちだ、たぶん。まあ、これがカッコイイ恋人とかだったら絵になるのだけど、相手は中学のときから変わらない顔だけは可愛い親友。ずっと見続けてきたその顔を見て、ふっと力が抜けてしまったのだった。

 恋愛にしても人間関係にしても、周りにある荷物をぱぱっとまとめて「じゃあね、ありがとう」と書き残して爽やかに立ち去っていけるような状態に、いつもしていたかった。執着心だとか依存心とかをもつのは怖いし、支えなしでぴしっと立てる状態が理想。だからこんなに自分がヘビーで面倒な女だなんて気づかなかった。「失いたくないの!!」なんて髪の毛をふりみだしながら必死で説得している女性がいたら引くし、あまり近寄ってきてほしくない。誰かに自分のグロテスクな部分をさらすのはおぞましいいし、我に返って死にたくなると思う。…のだけど、彼女に醜態をさらして気づいた。自分の厄介さや面倒くささを人に押し付けたり見せたりするのも、なかなか悪くないのかもしれない。砕け散るとか拒絶されるだとかを考える余裕もないくらい、向こう見ずに体当たりするのも、それはそれでありかも。そして何より、あの一件があってからというもの、私は脱走癖を発揮していないのだった。