小林リズムの紙のむだづかい(連載29)

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四六判並製160頁 定価1200円+税

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ドラえもん』の凄さがわかります。
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新しい出会い。アンナ&リズム。
紙のむだづかい(連載29)


小林リズム

【スナックでバイトしてみました】



 目に見えて減っていく貯金残高に恐怖を感じた。減っていくばかりで収入のアテも今のところない。とりあえず、家賃と生活費くらいは定期的に調達できるようにしないと…。できるならあまり時間を拘束されない、短い時間のなかで多く稼げるもの…。そんなふうに考えながらスマホでいくつもの求人サイトを駆け巡っていたのだった。
 スナックと聞くと、昭和あふれる感じをイメージするのはゆとり世代だからだろうか。ホステスさんはちょっと敷居が高いし、かといってキャバクラ嬢はキャピキャピした印象を勝手に抱いていて気が引ける。スナックは、ちょっと古めかしい蛍光色のピンクやらグリーンの土台に「スナックひとみ」とか「スナックのりこ」みたい字が並ぶこぢんまりした看板を見かけるし、あまり怖くなさそう。それに、山口百恵の曲だったら歌える。これならできるかもしれない…。
 そんな思惑から面接をしに行った。とは言っても夜の世界にひそかに怯えて、住所はしっかり嘘を書く。ママさんと軽く雑談をしたあと「じゃあ、今日やってみる?」という流れに流され、気付くと私はおじさん方を前にお酒を飲んでいた。当たり前だけど「え?22歳?大学卒業したの?昼間はなんの仕事をしてるの?」と聞かれる。「いやー、無職なんですよー」と喉まで出かかるも、ささやかな意地で見栄を張って「あ、フリーでライターしているんです」と答える。「へぇ、どんなの書いてるの?」「うーん…エッセイとかコラムとかですかね」「へえ、コラム!」なんていう会話が繰り広げられる。働いている先輩のなかには、漫画家を目指して有名な作家のアシスタントについている人もいた。彼女はきめ細かな白い肌がみずみずしい。そしてなんといっても、くっきり開いた胸元からのぞく美乳。方やテロテロの水色のドレスを貸してもらった私は、同情されたのかよくわからないけれど、胸の部分にやたらと花の飾りがついていて貧乳が目立たない仕様になっている。
 器用な様子でお客さんのタバコに火をつける先輩を見ながら、この世界は向いてないなぁと思いぼーっとしていると「どんなポエム書いてるの?」と聞かれた。コラムを書くと話したのに、酔いがまわっているせいかおじさんのなかで何故か私はポエマーになっていた。「いや、エッセイとかコラムで…」と訂正してもやはり最終的にはポエムにたどり着いてしまう。「ちょっと、今つくってみてよ」という無茶ぶりもされてしまう。即興ポエマーですか、無理なんですけど…。突然の題目にうろたえていると「俺も考えてみよう。あれだよね、5・7・5…」それは俳句だと思う。かくしてポエマー兼俳人になった私は、適当に高橋歩の有名なフレーズを、まるで自分が考えたかのように発表したのだった。
 自給2200円。一日5時間働いて、週5で入れば月22万稼げて昼間の時間も確保できる。美味しい話だ。しかし人にはできることとできないことがある。貧乳を花の飾りでごまかすのは私に向いていない。かといって私の貧乳では勝負もできない。なにより高橋歩の言葉を酔っ払い相手に勝手に披露してしまったことに後ろめたさも感じる。「夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ」とっさに思い出したこの名言に叱咤激励され、私は一夜にして夜の世界を去ったのだった。…つまり金銭的な解決は何もしていないというね。(小声)