小林リズムの紙のむだづかい(連載28)

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画・кёко


紙のむだづかい(連載28)


小林リズム

【いくつになってもおめでたい】


 ぶっちゃけ、うちの祖母は綺麗だ。70歳とは思えない肌のきめ細やかさ、髪の毛の艶やかさはもちろんだけれど、社交ダンスや英会話、絵画や旅行と多趣味で、孫の私からみていても溌剌としていて若々しい。それは祖母自身が自覚してやっているらしく、新しいものを進んで吸収していく。そんなふうだから、固定概念の強い祖父とはよく喧嘩をし「その発想はもう古いわよ」とか「今の人は今の人なりの生き方があるのよ」と諭していた。
 あれは確か祖母が中国へ旅行に行ったお土産を買ってきてくれたときだった。「りっちゃん、このパンティーあげるわ」と3枚くらい白いショーツを渡された。あまり時代を感じさせる言葉をつかわない祖母の口からパンティーなんていうワードが出てきたから思わず笑ってしまった。パンティーという言葉の響きが面白く感じてしまう。「パンティー汚しちゃった!」とか「このパンティー素敵!」なんて女友達が言っているのを聞いたことがない。そして勝手に綿素材のものをイメージしてしまったのだけど、しかしそれは偽物のシルクのような、つまりはポリエステルでできたショーツだった。真ん中に紐のようなリボンがついていて、てろんとしていた。ウエストのゴムの部分がゆるくできていて、実際に履いてみると、まったくもってフィットしない。前も後ろもだぶっとしていて気持ち悪い。無理やりフィットさせようと引っ張ると、ウエストまで伸びてしまうようなどんくささ。確かにこれは、ショーツというよりパンティーという商品名のほうが似合いそうだ。そっか、祖母くらいになるとフィット感は気にしないのかも。むしろちょっとゆるくて、おなかまで温められるくらいのほうがちょうどいいのか。なんだかんだ言っても祖母は70歳なんだよなぁ…。なんて思って何も言わなかったのだけど、翌日祖母は「りっちゃん、あのパンティーだめね、オムツみたい。今度旅行に行くときの使い捨て用パンティーにするわ」と言って若いお嬢さんみたいにクスリと笑ったのだった。
 洗濯物のなかから黒い生地に細かい花の刺繍がしてあるショーツを発見したのは、それからしばらく経ってからだ。「これ、あたし持ってたっけ?」と勘違いしてしまうようなショーツだった。お揃いのブラもきちんと干してあり、胸の小ささを祖母から受け継いだ私は、危うく下着を共有するところだった。やっぱり祖母は抜け目ない。
 さらに、祖母の仲のいい同窓会メンバーとの集合写真で、祖母が知らないおじいさんと手を繋いでいる写真を発見したのはそれからあとのこと。このことは、祖父には内緒だ。