小林リズム紙のむだづかい(連載9)


日芸女子腕相撲大会。

紙のむだづかい(連載9)
小林リズム

◆美乳願望

 小学生の頃「好きなフルーツは何?」という心理テストが流行った。私は「桃」と答え、幼馴染の友人は「いちご」と答えたのを今でもよく覚えている。「選んだ果物が、自分の将来のバストサイズです!」と言われて、私は幼馴染に同情したのだった。いちごって、とがってはいるけれど乳のサイズではない。なんかフォルム的にも微妙だし…。と憐れみながら、私は「桃!」と答えた自分に嬉々としていた。白桃の甘くて優しい感じや大きさからしても、抜群に美乳ではないか。私は自分が美乳になるのが楽しみになった。
 ところが、そこから十数年経った今、一向に私の胸はピーチサイズにならない。小さな桃をさらに半分にしたくらいの量である。確かに小学生の頃に好きなフルーツを聞かれて「桃」と答えたとき、庶民な私が桃の缶詰を一番に思い浮かべてしまったのは確かだけれど、それにしたってもう少しくらいあっても罰は当たらないと思う。
 そんなこともあってか、アイドルのグラビアを見ながら「まさしくピーチだわ!」という美乳が登場するたびに凝視してしまう。桃のような柔らかい膨らみ、白い肌から想像される甘さだとかにうっとりし、本当はこうなるはずだったのに…、と未だに根拠のない心理テストにしがみついているのだった。そもそも色黒の私は白桃ではなく黄桃よりなのだけれど、この際桃ならなんでもいい、胸が膨らんでほしい…!そんな思いでふと弟に相談したのだった。
「ねえ、掃除機で胸を吸いとったら、もっと胸大きくなると思う?」
すると真面目な我が弟は、母の掃除機を動かす姿を眺めながら「うーん…」と考え込んでから
「掃除機の吸いとり口って細いからさ…。たぶん、鏡餅みたいになっちゃうと思うよ」
と、気の毒そうに私を見て言うのだった。
 なるほど、確かに胸の広さと掃除機の吸いとり口の広さは釣り合わない。もし胸が引っ張られて伸びたらフォルムが鏡餅のように二段になってしまう。私は自分の胸が鏡餅のように変形してしまったところを想像してぞっとした。いくらお正月っぽくておめでたくても、そんな形になるくらいならこの微乳でもいいのかもしれない。ピーチバストへの憧れを捨てることはできないけれど、とりあえずこれで良しとすることにする。