小林リズムの紙のむだづかい(連載4)

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紙のむだづかい(連載4)
小林リズム



◆トキメキ脳


 思春期の頃は目が合っただけで心臓が爆発しそうになっていたのに、最近はトキメキがめっきり少なくなってしまった。きゅぅぅん!と音が鳴るくらいの胸の締め付け、喉の奥がひりひりするような甘酸っぱさはどこへ消滅しまったのだろう。一日中彼の言葉をリピートしてしまう、そんな体験はもう思い出せないくらいに遠い彼方だ。完全なるトキメキ不足。肌が乾燥していくように心にも潤いが足りなくてヒビ入っていく。あぁ、潤いがほしい…。
 そんなわけで、弟にトキメキについて聞いてみたのだった。恋愛経験のあまりない彼はしかし、意外にも日常生活でよくときめくらしい。ついこの間は、図書館の司書をしている年上女性にきゅんとしたという。
 「虫が飛んでいたみたいで、一生懸命に両手で叩いてつぶそうとするんだよ。でもそれがなかなか命中しなくて恥ずかしがっている様子が可愛かった」らしい。
 虫を叩き潰そうとして「チッ、はずした」とイラつくことだったら私にもよくあるけれど、恥じらいながら虫を殺そうとするのはなかなかの女っぽい姿のようだ。
 他には?と聞くと「近くのスーパーのレジ袋が六円するんだけど、それを節約するためにリュックを持ってきていたんだよね」という家庭的な女子大生。さらに「そのリュックからネギの緑の部分がピョンと飛び出している後ろ姿がすごくよかった」んだとか。マニアックすぎて参考にならない。
 とは言え「髪の毛を耳にかける」だとか「上目遣いでアヒル口」だとかのモテ仕草、もといあざといテクニックってそんなに使えるものでもないような気がする今日この頃。なんと言っても叔父が「会社で段ボールの箱を『持てな〜い』とか言って引きずっている子がいるんだよ。ああいうのムリ」と言っていたのが衝撃的だった。重い荷物を運べない女子って少女漫画では王道のヒロインじゃなかった?それを「ったく、しょうがねぇなぁ。貸せよ」と不器用にひったくる男性、っていうのが女子の永遠の憧れなんじゃないの?ぶっきらぼうな優しさと、頼りがいのある背中は、思春期時代の王子像には絶対にハズせないポイントのはずだ。悲しいかな、サッと手を差し伸べられない叔父はバツイチの独身。元妻は銀座のホステスさんで、借金を払ってあげた途端にバイバイされたという過去があるでもう騙されないと躍起になっているのだろう。
 人混みのなかで迷わないようにこっそりと袖を掴むというような小賢しいテクニックを、死ぬまでに一度はやってみたい。でもなぁ…「手をつなぎたいけど恥ずかしいから袖を掴んじゃった。きゃあ」なんていういじらしさアピールはハードル高いなぁ…。
 あざといテクニックを使うには、女を被れる潔さがないといけない。やっぱり弟のように、何気ない日常のワンシーンでのふとした素の部分にグッとくるのが一番なのかもしれない。ときめくのも大変ならば、ときめかせることも大変だ。