『世界文学の中のドラえもん』感想


『世界文学の中のドラえもん』感想

向井うらら
「私はドラえもんを見続け、ドラえもんと共に成長してきた」このように言っても過言ではないほど、私は小さい頃からドラえもんのアニメや映画を多く見てきた。しかし不思議なことにドラえもんに関する話で「昨日のドラえもんみた?」とか「ドラえもんの靴買って貰ったんだ!」など誰かと盛り上がったりした記憶はない。どちらかというと当時の幼稚園ですごく流行っていたのはセーラームーンで、私も大好きであったし、よく話題にのぼりグッズも多く持っていた。しかし、成長してみんなで昔話をする時、みんな口を揃えて「ドラえもん大好きだった」と言う。つまりドラえもんは、日本の子供にとって見ることが当然、面白くて当然のものであるのだ。本の中に「ドラえもんを無中になって愛読する子供たちが神経症になったり、引きこもりになったという話を聞いたことはない」とあるが、まさにその通りで、ドラえもんは子供に夢と希望を与えるとてもハッピーな漫画である。話も単純明快で分かりやすいし、基本的に起承転結が同じなので難しくない。男女に関わらず今まで見たことがない人は、ほとんどいないだろうし、ドラえもんはまさに日本を代表する人気者であると思う。そうにまでなるドラえもんの魅力とは一体なんなのだろうか。しかし、そんな私も途中から一切ドラえもんを見なくなってしまう。なぜなら私は、ドラえもんの声優が大山のぶ代さん世代なので、今の人に代わってしまってからはまったく見なくなってしまった。やはり子供の頃に植え付けられたイメージとは大きいもので、大山のぶ代さんの声で話すドラえもんが、私にとってはドラえもんで、今のドラえもんは、ドラえもんであってドラえもんではないのだ。そんな私も恥ずかしながら、今までドラえもんの漫画を読んだ事はない。そこでこの本の帯にある「のび太はすでに死んでいる、そしてすぐに復活している」という言葉は私を一瞬で引きつけた。

先生の授業は、漫画1話1話、また1コマ1コマを細かく分析し、解説していく。私はいままで漫画をさらっと読み、なんとなく雰囲気で楽しんでいたが、分析することによりここまで違った見方や、奥深さがあるのかと毎回驚いていた。特に私だったら気にも留めないような、例えば背景に書かれている物や、その配置などに気がつき意味を見出すことは、私1人では一生かかってもできないことだったので、多くの発見があり刺激を受けた。1コマから10や20の情報量を見出すこと、またその意味を自分で見つけられた時の優越感もまた面白かった。この本もまた、先生の授業同様、読んでいる最中に「なるほど!」と思わされる瞬間がたくさんあった。特に、ドラえもんの登場シーンで、「ゴト ガタ ゴト」という物音を、ゴトをゴッド(神)と意訳して「神がやってくるよ、神が」と解説しているところでは、思わず近くにいた母に話すほど衝撃を受けた。困っている少年のび太のために、便利な魔法の道具を出して、いつでも味方になり助けてくれる、これはまさに、のび太にとって神であるに違いないと私は共感したのだ。

また、本にあるように、私たちはすでに人懐っこくて愛くるしいドラえもんを知ってしまっているから、登場シーンから漂うドラえもんの奇妙さに気づく事ができない、という事実にまさにその通りだと思い、そして少しつまらないな、という気持ちになった。ドラえもんを何も知らない状態の私が初めてドラえもんの第1話を読んだら何を思うのだろう、と考えるだけでわくわくするのにそんなことはもう二度と起こらないのだ。ドラえもんは丸い。本にもあるように、もしドラえもんが四角や三角ばかりで構成されていたら、私たちはこんなにもドラえもんに対して愛着を持ち、好きにならなかったかもしれない。ドラえもんの作者は果たしてここまでいろいろ考え抜いた上でドラえもんを作り上げたのだろうか。この本には今まで絶対に気づかなかったことが、たくさん書かれていて驚かされるのに、それと同時にもっともっとと発見に欲張りになってしまう。探っても探ってもまだ何か出てきそうな予感がする、ドラえもんとは不思議な漫画だと改めて感じた。

本を読んでみての感想は、とにかく読みやすかったということだ。節があえて多くに分けられているため全体が見やすく、すらすらと内容が頭に入ってきた。普段あまり本を読まず、文章を読むことが苦手な私でもとても読みやすかった。また、この本は「なぜドラえもんはこんなにも人気なのか」という私の疑問に答えてくれた。「のび太の夢が子供たちの普遍的な願望を具体的に体現しているからである。苦労せず、楽して願望を実現したいという夢は子供にかぎらず、人間すべてが抱いているから、この作品は子供だけではなく、大人たちにも広く愛読されることになった」とある。確かに他の漫画に楽をして願いが叶うなどという話はない。ドラえもんとは極めて珍しく斬新な切り口である、ということが今更ながらに分かり納得したのだ。こんなにもドラえもんに関する発見があっては、ぜひ漫画のドラえもんを通して読んでみたいと思った。