『世界文学の中のドラえもん』を読んで・米山舞

「マンガ論」平成24年度夏期課題
 『世界文学の中のドラえもん』を読んで       
米山舞

 私は今年初めて他学科公開の授業を受講しようと思い、以前から漫画に興味があり、先輩方から面白いと評判だったため、清水先生のマンガ論を受講することにしました。
 読んだことのない種類の漫画を読み、清水先生の斬新な解釈を聞き「こんな読み方があったんだ」と、毎週とても楽しませて頂いています。
 特に「ドラえもん」の解釈はとても印象的でした。本書を読み、授業の内容をさらに掘り下げて理解出来て、自分の中にあったドラえもんのイメージが大きく変わりました。
 授業でもお話して頂きましたが、ドラえもんは二頭身で丸っこく、人から可愛らしいと思われる形をしている、というところが面白かったです。たしかに、普段自分が可愛らしいと思うキャラクターは丸っこい二頭身であることが多いからです。ドラえもんが、今と全く異なる角張った体形をしていたら、こんなに愛される国民的キャラクターになっていなかったりして、なんて考えてみたら不思議な気持ちになりました。
 ドラえもんに限らず、清水先生の毎週の授業や本で驚かされることは、一コマ一コマの観察眼です。部屋に置いてある家具や食器、その配置や、物の見せ方、人物の表情の読み取りの深さ、そこから想像することの出来る可能性の多さに、はっとさせられます。
 自分がいかに、普段漫画を浅く読んでしまっているかに気づかされ反省しました。小説ではないのだから、吹き出しの台詞だけでなく、作者が一コマの絵作りにこめているであろうこだわりをたくさん見落としてきたのかと思うと、悔しくてなりません。それからなるべく以前よりも一コマをじっくり見て、漫画を読むように努めています。一コマの大切さを教えて頂き、ありがとうございました。
 『世界文学の中のドラえもん』を読み、改めて感じたことがあります。漫画のタイトルや表紙が「ドラえもん」であっても、この物語の主人公はやはり「のび太」だったんだ、ということです。
 のび太を救うため未来から来てくれたドラえもんとの生活を通して、成長していくのび太の物語、とまではいかなくとも、藤子不二雄が描いたのはのび太のお話だったのだ、と思いました。今まで私はドラえもんが主人公だと勝手に思い込んでおり、実際のところ人によって意見は異なると思いますが、本書を読んで、のび太が主人公ということでしっくりきました。たしかに、ドラえもんのび太の理想の精神、つまりのび太自身であるという解釈は一見突拍子のない話に思えますが、『世界文学の中のドラえもん』を読んで、納得し感嘆しました。その意識を持ってもう一度、ドラえもんの数多くの漫画やアニメを見てみたくなりました。きっと芋づる式に、多くの発見を私に与えてくれることでしょう。
 本書にあった、「周りの人間がドラえもんを受け入れたこと」については、以前から疑問でした。「漫画だから」ということで落ちついてしまっていた自分がいましたが、「のび太が神である」という斬新な発想にとても驚きました。あの世界がのび太の創造したユートピアだと言うのなら、たしかに、ドラえもんという不可思議な存在が受け入れられる世界についても納得できます。のび太が、普通の人間であるという考えがそもそも考え方として普通すぎたのだ、と凡庸な自分に落胆さえしました。
 九十分の授業を、第一巻の最初の見開きのページだけにしぼり解説する、という授業自体が斬新で、その部分の解説だけであっても、清水先生の目はいろんなところに細かく行き届いていて、感動しました。のび太の精神状態と置かれている状況が、あのたった一ページから読み取れてしまうのだから、びっくりです。誰もが読んだことのあるであろう、国民的漫画のドラえもんを教材として取り上げて頂き、わかりやすく新しい読み方を提示して頂けたので、こんなに面白い授業を受講出来て、他学科公開で有り難いです。
 清水先生が「作家を感動させる評論を書かなければならない」と授業でおっしゃっていた言葉がとても印象的で、改めてマンガ論を受講して良かったな、と思いました。漫画や小説に対して向き合う清水先生の姿勢はとても真摯で純粋で熱く、漫画や小説の著者も、その作品も、そんな方に味わって作品を読んで頂けることはとても幸福だろうな、と思いました。私も、これからもっともっと多くの文学作品に触れて、自分なりの解釈を展開出来ていくまでになりたいです。
 私は毎週月曜4限の授業が本当に楽しみです。
 後期では、私の大好きな漫画『モンスター』を取り上げて頂ける様なので、それまでに読み直して、清水先生の解釈に負けないような解釈を自分の中でしていこうと思います。
 そんなことを思いつつ、「こんな読み方があったんだ」と、清水先生にまた新たな発見をさせて頂くことを、とても楽しみにしています。


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 『世界文学の中のドラえもん』 (D文学研究会)

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池袋のジュンク堂書店地下一階マンガコーナーには平積みされていますので是非ごらんになってください。この店だけですでに?十冊以上売れています。まさかベストセラーになることはないと思いますが、この売れ行きはひとえにマンガコーナーの担当者飯沢耕さんのおかげです。ドラえもんコーナーの目立つ所に平積みされているので、購買欲をそそるのでしょう。
我孫子は北口のエスパ内三階の書店「ブックエース」のサブカルチャーコーナーに置いてあります。
江古田校舎購買部にも置いてあります。