奥が深かった『ドラえもん第一巻』・若林恵理香

  奥が深かった『ドラえもん第一巻』
                             
若林恵理香
今回清水先生の『世界文学の中のドラえもん』を読んで、まず思ったことはというと「ドラえもんの第一巻がよみたい!」だった。ドラえもんのアニメはもちろん幼いころに毎週と言っていいほど見ていて、漫画は当時読んでいた「小学4年生」「小学5年生」という漫画雑誌に時たま載っていたのだが、その雑誌に掲載されているドラえもんの漫画はわりと新しい話だったので、一話を読むことはないままだった。
 マンガ論の授業の中でもドラえもんを扱った講義を受けてきたが、その時にも清水先生が手に持っていた『ドラえもん』の第一巻をわたしは読みたくて仕方がなかった。
 ドラえもんの講義を受けた時に一番衝撃的だったのがやはり、90分の授業をすべてドラえもん第一巻の最初の見開き1ページに費やしていたことだろう。まずは一コマ目、のび太が部屋でくつろいでいるシーンについてだ。もしわたしがなにも知らずにドラえもんの第一巻を手渡され、読んでくれと言われたら特になにも気に留めずにのびたが部屋で寝転んでいるところを読み、のび太吹き出しを読んで次のコマへ移るだろう。しかし講義、そして『世界文学の中のドラえもん』の中ではのび太の部屋の家 具の配置、ポット、お茶、おもち、子供向けの人気漫画、石油ストーブの置かれ方によるのび太の深層心理、部屋の間取りによってのび太が現在不気味な危機的状況に置かれているということ、そして物のことだけでなくのび太の容姿や服装からたった一コマでのび太の性格も読みとっているのだ。
 まずは家具の配置とポットなどの小物の並べ方だが、それらがゆるやかな曲線で並べられていることからのび太をガードしていることを読みとっている。ドラえもんの第一巻を読んだことのある者はたくさんいるだろうが、まさかポットやお茶、おもち、漫画、石油ストーブの並べ方に注目して読んだ人は圧倒的に少ない、いやいるかどうかも危ういのではないだろうか。部屋の間取りもそうだ。ガラスの窓がしっかり閉められていて、カーテンがきっちり端に引き寄せられ、襖がぴったりと閉じられていることや、ノートのしまわれ方、机の上のものの配置具合から人物の神経質さを読みとるなど、並みの観察眼ではない。
そしてそのたった一コマでポットやお茶がゆるやかな曲線を描いていること、部屋の襖と窓がきっちりしめられ、密閉されていることからのび太が実存的な危機的状況に陥っていること、救いようのない状況に置かれていることを明白にしてしまうのだ。一度講義でも聞いたがとても印象深いと感じ、そしてまた本で読んでもやはり印象深かったのだ。のどかな正月の一コマが描かれているはずなのに、その奥底ではのび太の危機を示唆させているのだ。とても恐ろしく感じる。
しかしわたしがこの本を読んで一番に恐ろしく感じた項は「三から四への秘儀」である。のび太が〈30分〉後に首つりをして〈40分〉後に火あぶりになる。何気ないこの30と40という数字がのび太の男性的競争社会から女性的世界への移行を表すということを知った時、大変な驚きを覚えた。
『世界文学の中のドラえもん』を読み終わった後に、それを買ったジュンク堂へたまたま行く機会がありそこでコミックコーナーを見て回っていたときにふとドラえもんの第一巻のことが頭をよぎり、衝動買いをしてしまった。何回も耳にし、本の中でも何回も読んだドラえもん第一巻の見開き1ページだが、実際に目にするのは初めてだった。家に帰って本を開いて読んでみると、なるほど講義通りに「のどかなお正月だなあ。」「今年はいいことがありそうだ。」というのび太吹き出し。ポットとお茶とお餅と漫画と石油ストーブ。部屋の間取りも聞いた通りだった。もし『世界文学の中のドラえもん』を読まずにドラえもん第一巻を読んでいたらこのコマはさっさと読んでしまっただろうが、あまりにも本の通りだったので思わず長いこと一コマ目を眺めていた。このポットとお茶とお餅と漫画と石油ストーブの配列はのび太を守っているのだろうか、部屋の間取りは密閉された救いようのない状況を表しているのだろうか、こののどかに寝そべっているのび太は本当に死んでいるのだろうか、といったことを考えているとさすがに90分とはいかないが10分はすぐに過ぎてしまう。ジュンク堂ドラえもんコーナーに置いてあった『世界文学の中のドラえもん』の近くに置いてあったポップカードに「ドラえもん一巻と一緒に読もう!」といった内容のことが書いてあったが、まさにその通りだと思った。この『世界文学の中のドラえもん』はドラえもん第一巻と一緒に読んでさらに面白みをますのではないだろうか。またこの本の内容の中にでてきた宮沢賢治の童話、主に『どんぐりと山猫』や『銀河鉄道の夜』、他にも講義の中にもでてきたドストエフスキーの『分身』も合わせて読むと一層面白くなるに違いない。それらの本も読んでみたいと強く思った。『どんぐりと山猫』の中に巧妙に隠されてたという「父殺し」をドラえもんのび太の中に見出すには『どんぐりと山猫』を読むほかに方法はないだろう。機会があれば次はこれを読んでみたいと思った。