林芙美子研究取材のため長野へ(連載3)

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清水正の新刊案内林芙美子屋久島』 (D文学研究会・星雲社発売)は日本図書館協会選定図書に選ばれました。
A五判並製160頁・定価1500円+税

林芙美子研究取材のため長野へ(連載3)
「塵表閣」へ着いてすぐに温泉を満喫。七時から食事。すべて女将の手作り料理。抜群の旨さに感動。一品一品に真心がこめられており、微塵の手抜もない。真剣勝負の極を味わった。十時から女将への取材。女将は疲れを見せることもなく、三時間に及ぶ取材に応えていただいた。林芙美子壷井栄川端康成与謝野晶子など多くの文人墨客が訪れた「塵表閣」を語るには多くの時間を費やさなければならない。今では容易に入手できない資料もあり、今後何回も「塵表閣」を訪ねることになりそうである。話は林芙美子から女将の純愛体験まで幅広く展開されたが、まさに「ひとに歴史あり」である。わたしは美知子女将の左傍らに座って取材していたが、テーブルの上に置かれた林芙美子と先々代の女将マツさんが一緒に撮影された写真を眺めているうちに、ふと美知子女将の顔とマツ女将の顔が重なった。そのことを言うと「近頃よくマツばあちゃんと似て来たと言われる」ということであった。マツ女将の旅館経営哲学は何よりもお客に対する心配り気配りにあったと思う。今、詳しく語ることは控えるが、マツ女将と林芙美子の写真は本当に心を許しあった者同士として映し出されている。マツばあちゃんは林芙美子の悲しみも苦しみも大きく包み込むひとであったのだろう。たとえどんなことがあっても、生き抜いてこそ証される愛がある。「塵表閣」に所蔵されている貴重な写真、色紙、絵画、書などの目録作成が完成すれば、この伝統ある旅館が果たした役割の一端が明らかになることだろう。










林芙美子(左)とマツ女将(右) 写真は塵表閣所蔵。オリジナルプリントは貸し出した先から返却されていないということであった。